こんにちは、こえじまです。
小学生がよく言う「先生、トイレ!」
それに対して先生が「先生はトイレじゃありません。」って返すお決まりのパターン。
でもこれって日本語的に本当に正しいんでしょうか。ちょっと真面目に考えてみました。
「先生、トイレ!」は日本語としてどうなのか
「先生、トイレ!」は省略せずに言うと「先生、私はトイレに行きたいです。」ですね。
この場合、
- 主語は「私」
- 動詞は願望の「したい」が付属した「行く」
- 目的語は「トイレ」
となります。
これがどのようにして「先生、トイレ!」になるのでしょうか。
主語の省略
日本語では主語が省略出来ます。
以下を考えてみましょう。
今日は疲れた。
主語が省略されていますが意味は通じますよね。
「先生、私はトイレに行きたいです。」は主語を省略すると、「先生、トイレに行きたいです。」となります。
主語に限らず、何かを省略する場合は、解釈の違いが生まれないためにも、省略したものが何であるかが自明でなければなりません。
省略したものの補完については後に考えます。
述語の省略
述語の省略は基本的には起きません。意味が通らなくなるからです。
しかし、話し言葉において、言わずとも述語が明確な場合や、キャッチコピーなどにおいて読者に強い印象を与えたい場合に用いられることがあります。
Yoo, Chang-Seok氏の「新聞広告のヘッドラインにおける文末省略表現の考察」では、述語を省略し、体言止め(名詞述語)にする場合、以下の表現意図としています。
- 消費者の想像力を刺激することを意図したもの
- 明確で断定的な文末によって、力強く消費者にスローガンを刷り込むことを意図したもの
- 反復との相乗効果によってスピード感を醸成し、テンポよく消費者の心情に訴求することを意図したもの
- 文末に商品名や企業名、地名を置くことによって、商品名や企業名、地名を消費者の記憶に残らせることを意図したもの
- 情報をダイレクトに伝え、情報を刷り込むことを意図したものなど 新聞広告のヘッドラインにおける文末省略表現の考察 – 檀国大学校 日本研究所
小学生がトイレに行きたいことを先生に伝える場合、最後の「情報をダイレクトに伝え、情報を刷り込むことを意図したもの」が当てはまります。
先生に対して、「トイレに行きたい!これは緊急のことだ!」と伝えるのを目的にしていると考えられます。
ちょっとトイレ!と似た述語を省略して体言止めとする例として、
じゃあ、俺はビール!
なんてのもありますね。
[aside]おまけ
少し脱線しますが、「名詞+する」で基本的に動詞化することが出来ます。
しかし残念ながら「トイレする」は過剰般化と言って、日本語的には間違いのようなので使わないようにしましょう。
[/aside]
「先生、トイレ!」は日本語的に間違いではない
以上に見たように、主語、述語を省略することで「先生、トイレ!」という言葉は生まれます。
また、「先生、私はトイレに行きたいです。」を元にして考えると「先生」は二人称代名詞であり呼びかけ語です。
「先生はトイレじゃありません。」は回答として正しいのか?
先生=トイレ?
先生はトイレじゃありませんという回答では、先生=トイレという式が成り立ちます。
では、「先生、トイレ!」と主語、述語を省略したことで先生=トイレとなる可能性があるのでしょうか。
主語の補完
まずは無くなってしまった主語を補完します。
小学生が「先生、トイレ!」を言うシチュエーションを考えてみましょう。
おそらく、教室で授業中にトイレに行きたくなった時に発せられる言葉ですよね。
主語の候補は3人です。
- 私(「先生、トイレ!」と言った小学生、以下私と表記した場合は発言した小学生を指します。)
- 先生
- クラスの誰か
しかしこの場合、「クラスの誰か」である可能性は低いでしょう。省略された主語が「クラスの誰か」である場合、推測は困難であり、主語は自明ではありません。(Aちゃん、B君、・・・などなど)
ここでは主語の候補として「クラスの誰か」では無いとします。
そうなると候補は私と先生の二人ですが、ここでポイントとなるのは、呼びかけ語である「先生、」です。
仮に主語が先生だった場合、「先生、先生がトイレ!」となります。
「先生、トイレ!」と言ったのが小学生であることを考えると、このような言葉が出るのは「(発言した小学生から見て)先生がトイレになってしまったことを先生に伝える場合」くらいしか思いつきません。
意味が通じません。先生がトイレになってしまったわけではないんですから。
超常現象でも起きない限りありえません。
述語の補完
さて、主語が私であることが分かりました。
次は述語の補完をしましょう。
しかしこの場合、述語の補完は大変難しくなります。
トイレに関連することであれば何でも補完できるからです。
もちろん一番可能性が高いのは「トイレに行きたい」ですが、「トイレを流し忘れた」だって十分にありえます。
述語の補完が自明に出来ないため、「先生、トイレ!」は日本語としてあまりよろしくないことが分かりました。
トイレが主語?
主語の補完の時に考えたのは、トイレが述語だった場合のことです。
しかし、トイレが述語ではなく、主語となる可能性もあります。
(トイレが爆破されたのを見ながら)「先生、トイレ!」と言われた場合、「先生、トイレが爆破されました・・・。」と補完出来るわけです。
「先生、トイレ!」という言葉を聞いて、トイレを主語だと判断した場合、先生は「トイレに何かが起こったのか?」と考えることでしょう。
先生はどう答えるのが正しい?
ここにきて「先生、トイレ!」に対して先生が回答する候補が見えてきました。
主語が私だと判断した場合
主語が私だと判断した場合、「先生、トイレ!」は「先生、私は(が)トイレ!」と補完できます。
述語については補完し切ることが出来ません。
そのため、先生の回答は「あなたはトイレではありません。」(私=トイレ)か「トイレがどうした」(トイレという名詞述語の意味が不明)が正しいです。
もちろん、「先生、私はトイレに行きたいです」と補完してあげて、トイレに行かせてあげるのも正解ですよ。
主語がトイレだと判断した場合
主語がトイレだと判断した場合、「先生、トイレ!」は「先生、トイレが!」と補完できます。
こちらも述語は完璧に補完することは出来ません。
そのため、先生の回答は「トイレがどうした」(述語が不明)が正しいことになります。
まとめ
ちょっと気になって考えただけなのですが、えらく長くなってしまいました。
小学生が言う「先生、トイレ!」に対する先生の回答候補は以下となります。
- あなたはトイレではありません。
- トイレがどうした?
- トイレに行ってきなさい。
また、「先生、トイレ!」は省略した言葉が明確でないため、日本語として正しいとは言えません。
個人的には、「先生はトイレじゃありません。」もユーモアがあって良いと思いますけどね。
私は日本語学専攻でも何でもないので、この考察が日本語学的に間違っていればバンバン指摘ください。
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