こんにちは、こえじまです。
論文を書くために必要な手順、論文の書き方の基本を東大博士課程の方に教わりました。
卒論の中間報告書を書くときにこの方法を使ったところ、「しっかりと論文の形をしている」(内容はともかく)と言われる程度のクオリティになりました。
内容は保証出来ませんが、紹介するポイントを守ることで論文の体裁を整えることは出来ます。
章立てをする
まず最初のステップは、「章立て」をすることです。論文の骨格を作る作業であり、論理的な文章を書くには必要不可欠です。
章立てとは
「章立て」とは、文章を構成する際の骨格となるものです。
「章立て」とは,章や節にタイトルを列挙したものです。 (中略) 章立ては,通常,実際に文章を書きはじめる前に行います。 著者にとって章立てを行うことは,文章全体の構成を考えたり,文章中に必ず書かなければいけないことを把握する機会になります。
章立てマニュアル – PukiWiki
次に章立ての仕方について述べていきます。
ピラミッド型を作ろう
章立てをするために、まず最初にすることはピラミッドを描くことです。
ここでいうピラミッドとは、論理のピラミッドで以下の図のようなものです。
このピラミッドはこの記事を構成する際に作ったピラミッドです。
ピラミッドを作るにあたって注意しなければならないことは、それぞれにおいて粒度を揃えることです。
章、節、項
章立てにおいて、粒度を揃えるとは各章、各節、各項の全てが同じ粒度になることを意味します。
論文であれば章、節、項のそれぞれで書かれることは大体決まっています。
以下では「新しい車のエンジンの設計と実装」について提案する論文を書く場合の章立てを行ってみます。
[aside]注意
私は車やエンジンの専門家でもなんでもありませんので、中身は完全に空想です。
あくまで例ということでご覧ください。
[/aside]
章で、論文の一番大きな骨格を作ります。
そのため、この部分は抽象的な言葉となりがちです。
- 序論
- 多様化するエンジン(背景の補足)
- 関連技術
- 提案手法
- 実装
- 評価
- 結論
おおよそ以上のようになります。
序論ははじめにと置き換えても良いです。同様に、結論はおわりにと書き換えても良いでしょう。
節では、その章を支えるための骨格を書きます。少しずつ具体的な内容に近づいてきますが、それでもまだ抽象的です。
序論
- 背景
- 本論文の目的
- 本論文の構成
多様化するエンジン
- エンジンの種類
- 従来のエンジン実装方法
- 現状での問題点
関連技術
- エンジンオイル
- ガソリン
- エンジンに用いられる金属
提案手法
- 想定される使用環境
- 要件
- 提案手法の概要
実装
- 実装手法a
評価
- 回転数
- 消費ガソリン量
結論
- まとめ
- 今後の課題
実装部分に関しては特に思いつかなかったので省略しました。
項は、節がまだ区分として大きすぎた場合に作ります。
今回の例で言えば、関連技術はまだ区分として大きすぎるので、以下のように分けてみました。
エンジンオイル
- 自然由来
- 人工物
ガソリン
- レギュラー
- ハイオク
- 軽油
エンジンに用いられる金属
- アルカリ金属
- アルカリ土類金属
最終的に出来た章立てをLaTeXで書きだしてみると以下のようになります。
粒度を揃える
章立てをする際に注意するべき点は、それぞれの粒度を揃えることです。
章なら章、節なら節、項なら項で、それぞれが同じ抽象度にする必要があります。
5の実装で5.1では実装方法aとなっているのに、5.2で実装手法aで用いる道具なんて述べられていたりすると粒度が合っていないので注意しましょう。
それぞれの節は章を構成する要素となり、項は節を構成する要素となるようにします。
これを上下に並べるとピラミッド型になります。
抽象度をきちんとそろえていれば、自然とそうなっているはずです。
最終的には、章立てを読むだけで論文の流れが分かるようにします。
ここに論理の飛躍があってはいけません。この作業を終えるとやっと章立てが完成です。
ピラミッドを作ってみる
では、実際にピラミッドを作ってみましょう。
ピラミッドを作る際に重要な事は、関係のないことは書かないことと曖昧な言葉を使わないことです。
まず、関係ないことは書かないというのは、本論と関係のない内容を埋め込まないということです。
何字以上や何枚以上などの下限がある場合には仕方のないことかもしれませんが、基本的には本論に関係のない内容は書きません。
関係のないことを書くと、話が飛び飛びになります。そうなると大抵の場合、論がきれいに通りません。
もうひとつは、曖昧な言葉を使わないことです。
曖昧な言葉とは、「適切な」、「柔軟な」などの文中で意味をなさない言葉です。
「問題」という言葉も、「◯◯は問題である。」という使い方をすると曖昧言葉になります。
これらの言葉は非常に便利なのですが、ピラミッドを作る上では使用厳禁です。
これらの言葉を使うことで論に曖昧さが含まれることとなります。
そうなってしまうと、論文の説得力が無くなってしまいます。
具体例
車のエンジンについての論文のピラミッドは以下のようになっています。
ピラミッドはガンガン書き直すものなので、大きめの紙に鉛筆で書くことをオススメします。
先輩に確認してもらう
よし!ピラミッドを書き終わって、章立てを終えた!これから本文を書き始めるぞ!!
ちょっと待って下さい。その章立てはあなたが作ったもので、あなたしか見てないのではありませんか?
長々と作っていると、段々とこれで大丈夫だろうと思ってしまうものです。
自分で作っているものであるため、行間を無意識に補足してしまっている可能性があります。
そこで、あなたの作った章立てを他の人に見てもらいましょう。
出来れば、自分が書こうとしている論文の分野に精通している先輩が良いです。
その人に特にチェックしてもらうべき部分は、抽象度と単語です。
抽象度
先ほど抽象度をそろえるという話をしましたが、先輩から見ても抽象度はそろっていますか?
自分の勘違いで勝手に抽象度はそろっている!と思っているだけかもしれません。要チェックです。
単語の勘違いや使い間違い
単語の勘違いや使い間違いもよくあります。
ある技術を節に書き、その中のある具体例を項に書いたとします。
その具体例は本当にその技術に内包されるものですか?
もしかすると違う技術にくくられるのかもしれません。これも要チェックです。
トピックセンテンスを書く
章立てを無事終えると、次はトピックセンテンスを書きましょう。
トピックセンテンスを書く際にも、章立ての知識は使えます。
というか、することは章立てとほとんど同じです。
トピックセンテンスとは?
トピックセンテンスとは、段落において、一番言いたい内容を表した一文です。
これも節や項を書いた時と同様に、トピックセンテンスを並べることで節、または項を構成します。
つまり、トピックセンテンス間の抽象度が同じであることと、節または項の説明となっているべきです。
トピックセンテンスによって節または項が構成される以上、トピックセンテンスが1つだけの項や節は存在しません。
例外は「本論文の構成」の節くらいです。トピックセンテンスで節や項を支えるため、それぞれの節や項にはトピックセンテンスが2文以上となります。
一意以上を持たせない
トピックセンテンスを書く際に注意するべきことは、一文に一意以上を持たせないことです。
ここで言う「一意」とは、一文の中に伝えたい事が1つしか無いことを意味します。
トピックセンテンスは簡潔かつ明快にすることが重要です。
トピックセンテンスを簡潔かつ明快にするために気をつけるべきは接続詞です。
一文が一意にならない場合の多くは、主語と述語が2つ以上になっているためです。
一文には必ず、1つの主語と1つの述語を心がけましょう。
これは後に文章を書いていくうえでも同様です。
確認してもらう
ここでも先生や先輩などに確認してもらいましょう。
ちゃんと出来ていれば、この時点で自分が書きたい論文の骨組みが完成します。
論文の論理の流れが伝わるかを重点的にチェックしてもらいましょう。
それぞれの文章の間で、論理の飛躍が無ければOKです。文章を書くステップへと移りましょう。
文章を書く
ここでは作ったトピックセンテンスを元に文章を書いていきます。
1トピックセンテンス当たり一段落で書く
基本は1トピックセンテンスで1段落を構成します。トピックセンテンスの説明や、その詳細を段落中で述べます。
段落はトピックセンテンスとトピックセンテンスの補強によって構成されることが基本です。
そのため、1文のみによってなる段落は存在しません。
初めて論文を書くときは1文だけでなる段落を作りがちで、実際私も作ってしまっていました。
しかし、トピックセンテンス+その補強という構成にすれば、そのような段落は存在しなくなります。
段落を構成する際には、段落の最初の文はトピックセンテンスにします。
そして、その後の文でトピックセンテンスを補強します。
日本人は民族的に結論を最初に述べることが苦手で、日常の会話であれば結論を最後に持って行ったほうがオチがあって面白いかもしれません。
しかし、今書いているものは論文です。読む相手は大抵時間がありません。
トピックセンテンスを最初に書くことで、論文の流れを素早く理解してもらえるようにします。
このルールは良く出来た論文なら、必ず守られています。
パラグラフリーディングなどの速読は、よく出来た文章、つまりトピックセンテンス→その補強の流れで段落が構成される文章を対象とすることが多いようです。
背景だけは例外?
論文の最初の方で書かれる背景だけは、このトピックセンテンス→補強の流れの例外としても良いでしょう。
背景は広い部分から自分が対象とする狭い部分へ絞っていくことが目的です。
つまりエンジンの例で言えば以下のようになります。
昨今の日常生活において車は必要不可欠のものとなっている。
しかし、従来のエンジン技術では大量のガスを排出を避けられない。
そのため、エンジンは稼働するだけで自然環境へ多大な被害を及ぼしている。ガスを排出しないエンジンの開発も進んでいるが実用には程遠い。そこで本論文では、従来のエンジン技術を用いながら排気ガスを削減できる手法について提案する。
このように段落を構成した場合、トピックセンテンスは最後の「提案する」の文です。
背景では対象とする範囲を段々小さくしていく必要があるため、トピックセンテンスが最後に来ても問題ありません。
極力曖昧な言葉を使わない
トピックセンテンスの時ほど注意深くならなくても良いのですが、極力曖昧な表現は避けましょう。
基本は一文に一意です。その一意をはっきりと分かるようにしましょう。
「・・・かもしれない。・・・だろう。」などの推測的表現は厳禁です。論文自体の説得力が一気に無くなるのでやめましょう。
文章は極力短くしましょう。「〜するということなのである。」なんて最悪です。意味不明です。
「〜する。」でも意味は変わりません。はっきりと短く言い切ってしまいましょう。
とにかく最後まで書く
最後は文章の書き方ではなく、論文を書く時の心得です。
完成度を上げる
初めて論文を書く人にありがちなのですが、論文を書き終わってそのまま提出する人がいます。
これは良くありません。誤字脱字があるかもしれません。何度も読んでいるうちに、何かおかしいぞ?ここは論理が飛躍しているかも・・・という部分を発見するものです。
完成して提出していない論文を読み返し、修正を加えることを「赤入れ」と呼びます。
論文の完成度を高めるためには、この赤入れを5〜6回する必要があります。
論文の完成度は提出する直前まで高めることが出来ます。
提出が終わるまでは漸近的にでもクオリティは高められる。だから論文は提出するまで終わりません。
赤入れの仕方
赤入れとは具体的に何をするのでしょうか。
言葉からイメージが着くかもしれませんが、印刷した自分の論文に赤いボールペンでどんどん修正を加えていきます。
ここで重要なのは実際に印刷して、紙にしたうえで赤いボールペンを握るということです。
印刷するとPCの画面で見るのとは違って見えます。
赤ボールペンを握りながら、通しで読んでみておかしい部分が無いかどうかチェックしましょう。
チェックするときに是非してほしいことは、つぶやくことです。
大抵の人は話すスピードよりも読むスピードの方が早いです。
その読むスピードを話すスピードまで落とすことで、より理解しやすくなり、変な部分に気付きやすくなります。
ぶつぶつ言いながら読み進めていくことをオススメします。
まとめ
論文を書くときの3ステップと心得を書きました。論文は以下の3ステップで書きましょう。
- 章立てをする
- トピックセンテンスを書く
- 文章を書く
極限までクオリティを高めるために、早いうちに初稿を書き終わり、赤入れを繰り返しましょう。
この手順を踏むことで、タイトルと論文の中身については保証しかねますが、構成としては「ひどくはない」論文が書けるようになります。
最後に論文の書き方を学ぶ上でオススメの書籍を2冊紹介します。
入門 考える技術・書く技術
論文の書き方はビジネスライティングと非常に似ています。
ピラミッド構造について分かりやすく書かれた本で、読みやすいためサクサクと理論を学ぶことが出来ます。
理科系の作文技術
私は読んでいないのですが、修士課程や博士課程の人の大半がオススメしています。学部の卒論だけでなく、これからも何度も論文を書くことになるのであれば、一読する価値があると思います。
Webページでは以下の2サイトがオススメです。
松尾ぐみの論文の書き方:英語論文
英語論文について書かれていますが、論文全般に当てはまる話も多いです。完成度を高めることの重要性について深く取り下げています。
http://ymatsuo.com/japanese/ronbun_eng.html
「トピック・センテンス」とは何か
トピックセンテンスとは何かについて述べられています。英語で言うトピックセンテンスの意味とは。
http://hb8.seikyou.ne.jp/home/amtrs/topic_sentence.html
コメント
誤字に注意しながら、ご自分で修士過程、博士過程では、恥ずかしです。修士課程、博士課程です。赤入れをしっかりしましょう。
赤入れをしっかりしましょう。×修士過程、×博士過程。〇修士課程、博士課程。
葉山さん
ご返信が遅くなってしまいました。
過程→課程と修正いたしました。ご指摘ありがとうございます!
記載の抜粋
「トピックセンテンスによって節または項が構成される以上、トピックセンテンスが1つだけの項や節は存在しません。
例外は「本論文の構成」の節くらいです。トピックセンテンスで節や項を支えるため、それぞれの節や項にはトピックセンテンスが2文以上となります。」
【質問】なぜ、節や項にはトピックセンテンスが2文以上となるのでしょうか。お手数ですが、ご指導を何卒お願い致します。
鈴木さん
アカデミックの世界から離れて随分経つため、正しくはないかもしれませんが回答させていただきます。
記事内にあるように論文は、粒度の大きな順から章>節>項と構成されます。実際には項あるいは節のさらに下に段落があり、段落は基本的に1トピックセンテンス+その補強によって成り立ちます。
ピラミッド型を構成することを前提とすると、項>段落とした階層において段落が1つとなることはありえません。すなわち段落が2つ以上であるということは、1段落あたりトピックセンテンスが1文なので、トピックセンテンスも2文以上になります。仮にトピックセンテンスが1文になってしまうとすると項の粒度が小さすぎるのだと考えられます。
ご回答になっておりましたら幸いです。